フライト・インプレッション

TransferXT-R
フランスのスポーツカイト・メーカーであるL'Atlier社は世界のトップメーカーのひとつに数えられる競技用スポーツカイトの「ブランド」であり、また実績のある「名門」でもある。その、L’Atelier社の旗艦スポーツカイトとして、トランスファーXT・シリーズがある。その中で最も汎用性を持ち、また競技する側にとっても使いやすいサイズとして(UL仕様からベント仕様まで用意されているフルバージョン)作られているのが、TrancferXT-Rである。トランスファーXT・シリーズには派生として、XT-SとXT-Zが存在しているが、XT-Sはチーム用を意識した更に大きいサイズであるし、XT-Zはトリックスパーティ(欧米で行なわれているトリックだけを競う競技)のための動きの俊敏なバージョンで、サイズはXT-Rよりも一回り小さい。これらは使用目的を特定化したカイトである。特にXT-Zは味付けは似ていても、XT-Rとは飛びの性格は幾分異なる。
L'Atlier社では、それまで旗艦カイトとして活躍していた主力のImpactの旧態化に伴い、Mathieu Mayetを中心に画期的な新型スポーツカイトの開発を行なって来た。そして生まれたのがTransferXT-Rである。曳きが強すぎると批判されたImpactの欠点は取り除かれ、XT-Rは風速が上がっても、もう曳きの限界を超えることはない。(トランスファーXT/シリーズの完成を待ってImpactの生産は中止された。)フランスにはL'Atlier社の強力なライバルとして、同じく一流のR-Sky社がある。R-Sky社には優秀なNirvanaがあり、L'Atlier社としてはNirvanaに負けない新型スポーツカイトを必要としていたのである。この2社の熾烈な競争から、フランス製スポーツカイトの水準は高まり、いまはトップの座にある。
TransferXT-Rのサイズは、ライバルのNirvanaと同クラスである。この大きさはフルサイズのスポーツカイトの標準であり、競技者が使う場合でも大き過ぎず、小さ過ぎずで、とても使いやすい。競技対称としては個人のバレエ競技と規定競技(インディビデュアルと呼ばれる)、そして、ペアとチームであるが、これさえもNirvanaと同じカテゴリーなので、あらゆるシーンで両者は激突する。
最新のスポーツカイトと過去の古いスポーツカイトの決定的な違いは、トリック性能の有無とトリック・レベルの違いである。トリックといってもその程度にはピンからキリまであるが、ここで言うトリックとは「ピン」のことであり、換言すれば「実在するすべてのトリックができる」ことである。AxelやFadeが出来るだけでも、トリックが出来ると謳った時代も過去にあったがいまは違う。よく、ユーザーから「ペアで使うからトリックは要らない。」みたいなご意見を伺うことがあるが、ペアでもチームでも高いトリック能力が必要なのが、いまの世界の趨勢なのである。よって、トリックできない新型機は新型にはならない。トリックがしたくなければしなくていいが、(出来ないからやらないとしても)トリック性能を加えたために他の性能が劣ることは無い。トリックについて懐疑的な古いフライヤーに出会うこともあるが、それも多分、上記のようなことであろう。ターンやストレート性を犠牲にしていると思っているに違いない。それはホントに昔の話なのだ。今は両方を満足させるのは普通のことである。裏でも表でもカイトは飛ぶことが出来るようになった。だから、それだけスポーツカイトの設計は難しくなっていて、古い時代に得たスポーツカイトのメカニズムの経験はいまのスポーツカイトに全く役立たないくらい変化している。
TransferXT-Rは幾分ハイ・アスペクトな翼型をしている。(翼平面型の縦横比が高い。つまり横長な。)これには理由がある。そのひとつは強風下でのコントロール性の向上のためである。ロー・アスペクトな(おむすび型の)翼型の場合、強風でフレームが曲がって来ると、セイルが風を包み込んでしまい、強い曳きが出る傾向にある。ハイ・アスペクトな翼型はフレーム変形が少なく、強風下での曳きは楽である。また、最近は、カイトを後ろ向きに1回転させてラインを翼に巻きつけ、そのまま飛んだ後でラインを巻き戻すYoYoという人気のあるトリックがあるが、これを行なうには巻きつける翼の幅が大きいと巻きにくい。ハイ・アスペクトな翼型はこの部分が短く、また回転半径も小さいので、容易に巻きやすいのだ。また、そのような理由で縦回転系のトリックは,例えばours
des prairie (Jacobs Ladder)にしてもすべて有利になるのである。
ハイ・アスペクトな翼型だと逆にストレートやランディングが不安定にならないかと考える、そんな心配症の方のために説明をしておくと、その心配は取り越し苦労である。L'Atlierはちゃんと考えているのだ。スポーツカイトの運動能力はブライドルの優劣によって左右される。(形式の問題ではなく3本それぞれの寸法で。)XT-Rのブライドルは基本的にスリーポイントを踏襲しているが、リーディングエッジ下側への取り付けには小さなCardonシステム(2本のブライドルの1方をバイパスさせることでターンを切るときは短くなってキレを増し、Cascadeや540のように長さが必要な場合は通常の長さで使えるシステム) を併用することで、ターンのキレを良くしている。またセンタースパイン側のブライドルは通常のスポーツカイトならば、Tコネクター自身か、Tコネクターの直下につくべきものを、Tコネクターから5cmも下側に離した位置に取り付けしている。これはボトムスプレッダーを平均よりも上に配置しながら、ブライドル的にはTコネクターが下にあるような、つまりロー・アスペクトなカイトのブライドル取り付け配置をして、同時に2つを満足させている。その結果、セイルに風がはらんでいる限り、ブライドル間隔は広くセットされ、直進性はよく、規定競技図形を描くことにも使える精度の高い性能を持たせているのだ。このやりかたは今のところXT-Rだけである。また、この配置はランディングへの貢献度が非常に高い。弱い風でカイトがランディングする場合はカイトの自重でも降りるから、ちょっと前進するだけで誰でもストールランディングは出来る。しかし、風速が6m越えると、正面へのランディングは難しくなって来るものである。なぜならば、地上付近でストールをかけるとカイトは正立し、再び上昇に移ろうとするためだ。このような状態になると、思い切り前に走って降ろすしかない。しかし、風速が高いと降りないだろう。一端、風の入ったカイトはフライヤーが走ったくらいでは止まらない。では、どう降ろすか。地上1.5mくらいまで急降下して来て、瞬発的にストールをかけ、カイトが正立すると同時に、姿勢が後ろ45度傾いたまま、放り投げたように落とすのである。前に出たとしても1歩しか必要ない。これに必要な最初のひとつはランディングテクニックであるが、次はカイトのブライドルの長さがどうなっているかである。TransferXT-RのTコネクター側のブライドル長はここに取り付けたためにドンピシャになっている。強風下でもウインドセンターにドンドン落とせる。浮き上がったりはしない。それは小気味いいくらいである。だから、通常型のランディングで初心者でも容易に降ろせる。
TransferXT-Rのターン性能については人によって意見は多少違うかと思う。これはターンのキレに問題があると言っているのではない。ターンにはきり方というものがあり、きり方が判っていれば何の問題もない。バスッ、バスッと鋭く切れて行く。きったあとは綺麗な直進に入るから、そのままの加速も伸びる。ターン系は全然悪くないと思う。最新のR-Sky社のNext-Upもこのタイプである。しかし、ターンをきるのではなく、カイトに頼って曲がってもらう、小さなカイトやULみたいなパキパキとした曲がりを求めていたら、ちょっと違うと思う。そういうセッティングにすると、確かにちょこちょこ走るが、鋭いターン後は実はカイトは止まろうとしているのを無理に引っ張って飛ばしている結果になり、あまり綺麗じゃない。難しいことではないが、後者の好みとは違う。
TransferXT-Rの翼端には水かきのようなタブがついている。XT-Rは先代のLithiumから受け継いだと思うが、そのはしりであった。これは役に立っている。このタブを付けると風切音を出すスポーツカイトが多い中、XT-RがそうでもないのはL'Atlier社の丁寧なカイト作りからであろう。XT-Rを全部バラバラにして、もう一度組み立ててみればよく判るが、ナンと手の込んだ作り方をしていることか。できれば簡単に仕上げたいという気があるとは思えない。クラフトマン・シップが感じられる。翼端タブがカイトの左右への振れを防止し安定性を増しているのは確かである。これはターン後のストレートへの繋がりや、YoYoで回転する際にも感じられる。長い脚を振り回しながらのターンはカッコいい。
翼端タブが付くことのメリットはまだある。この手法によってカイトの翼端近くのセイル幅が取れる。翼端が尖っていると翼端に向かってセイル幅はどんどん狭くなるのが普通である。それは既にちょっと手前から狭くなっているが、翼端タブがあると、そのちょっと手前の翼幅が取れる。つまり翼端失速の限界性能が高まるのである。トリック中のカイトは落ちるか落ちないかのギリギリで技に入っており、フライヤーはその限界を感じ取って飛ばしている。うまい人ほどにその限界はギリギリにある。それに余裕が生まれるのである。これは翼端タブだけでなくカイトの重量やバラストなどの他の要素も密接に絡むので、タブが有りさえすれば、とは言わないが、理屈としてはそうである。
翼端タブがあれば、ペアやチームのシンクロの際はバランスしやすいし、Stackの安定性もいいはずだ。そしてランディングもいいとなるとね。
TransferXT-Rの中心的な狙いは個人競技用であろう。いま、ヨーロッパではペアはトリック入れまくりだから、個人競技のトリック入れまくりと殆ど差は無い。日本もスグにそうなるだろう。個人競技用のカイトとペア用を別なモノのように思う人がマレにあるが根拠はない思う。初めからペア用カイトというのは存在しない。個人用というとバレエと規定用となる。トリックスパーティにも使われているから、そのための兼用には使える。トリックしなければ(あるいは出来なければ)初心者でも飛ばせるので、XT-Rは性格の悪いカイトではない。素直と言えば素直である。頑丈でもある。
とってもやりやすいトリックの代表はours
des prairie (Jacobs Ladder)である。Fadeはぴったり静止できる。BackSpinはL’Atelierのカイトはすべてそうだが、とってもやりやすいし、しっかりした手応えでよく回る。CascedeやFlicFlacや540は難しいものではない。LazySusanやMultiLazy系は翼のくびれが深いのでラインがそこに落ち着き、回しやすい。だからKomboも降しやすい。XT-Rを買ったら絶対YoYoに挑戦すべきである。全く心配無用。すぐに出来る。勢いだけでいともたやすく回ってくれるのでビックリするだろう。セイルの後縁は頑丈に補強されており、YoYo時にラインでセイルを切ることはない。ということで基本的なトリックでは悩むことは少ないに違いない。ただ、このように頑丈にまた手が込んでいて、そのためにカイトは決して軽くは無い。よって、コントロールの初動にはしっかりとパワーを入れてやるべきだ。中途半端な動かし方だと回り切れなかったりする。重さの割にはカイトの浮きは良く、風が落ちてもStd仕様で飛ばし続けられるのはいいブライドルのせいである。
トリックについては全般的にはイージーな方だと言える。ただし、Cometeだけはイージーではない。Cometeはセンター側のブライドルをTコネクター位置に、あるいはターボダイナミックス形式のブライドルにした方がイージーである。なにがイージーでないかというと、返し側の(つまり起こす側の手)をちょっと早めに操作しなければ回転が止まるためだ。自分のカイトであれば慣れるが、途中で逆回転させ、左右に回すようになるにはかなり練習が必要である。
最近のように誰彼なしに高度なトリックが出来るようになると、今度はそのトリックの質が問われて来ると思う。初期の段階では荒削りなトリックであろうと、出来てナンボの世界で、出来た者は「どうだっ。」となってしまうが、次の段階では、いかに美しく完璧にカッコ良くトリックできるか、どうか、となるのだ。力まかせではずみでトリックしていても綺麗じゃない。TransferXT-Rはガチャガチャとしたトリック専用機ではないので、小さなトリック機と比べると、ちょっと緩慢に見えるかも知れない。しかし、ちゃんと飛ばし込めば、ストレートも綺麗だし、チームのような飛びも問題なくこなせるし、強風下でも際どいトリックが出来る。そいう使い方をしてみると、このカイトが何のために作られたかは良くわかる。最近、他社のスポーツカイトにもXT-Rのデザインに似たものが出てきていることからも、その理由はちゃんとあるのである。
(textエスク中野)
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